呼吸器疾患のセルフマネジメント
呼吸器疾患のセルフマネジメント

年内最後の投稿なので、少しまとめ的な内容になります。
セルフマネジメントって、ご存知でしょうか。
「患者さん自身が疾患理解・行動変容スキルを獲得し、主体的に健康行動を継続すること」です。難しい言い方になったかもしれませんが、必ずしも薬だけで健康になれるわけではなく、生活の中での工夫も必要なことはよくご存知かと思います。
呼吸器学会をはじめとした3学会から合同で、慢性呼吸器疾患の患者さんのセルフマネジメントを支援するためのマニュアルというものが発表されています。
当院では、この公式ホームページやSNSを用いて、マニュアルの内容の部分部分を知っていただくように投稿してきましたが、マニュアルの全貌を見るような内容にさせていただいて、今年の締めくくりにしようと思います。
セルフマネジメントとして患者さんと行っていくことは、「初期評価→個別計画立案→教育→行動変容支援→再評価→継続」の繰り返し・循環とされています。まずは自身の評価をできてからこそ、目標設定ができるということになりますので、基本的な病気に関する知識などを学習することが重要です。
疾患に関する知識以外で学習する項目として挙げられているのは、禁煙・環境リスク・薬物療法・ワクチン接種・増悪予防・息切れの管理・身体活動性向上・栄養・在宅酸素/人工呼吸療法・社会資源活用・心理面の支援・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)・訪問診療・ICT活用・外来支援・地域包括ケアシステム・災害対策などです。
疾患に関する知識は当院の公式ホームページ立ち上げの当初から、一般的なことは記載したものを準備しており、それ以外の項目につきましては、酸素療法についても当初から簡単な記載をしてあります。追加で、高齢者のワクチン戦略について投稿しました。SNS上では、環境リスクについて知識として簡単にまとめ、栄養についても学んでいただけるようにしました。看護師さんからの具体的な調理の工夫も紹介してあります。身体活動性向上とまでは言えませんが、簡単なもので呼吸に有利に働く体操の動画も挙げております。それぞれを単発で見られてもなかなか響きにくいところがあったのではないかと思いますが、セルフマネジメントの全体像の中での一部として認識していただいて、患者さんそれぞれに問題意識を持っていただいて、今一度ご視聴いただければ少しでもお役に立てるのではないかと思います。
まだ触れていない項目もいくつかあり、それは内容が深すぎて触れることができていなかったという側面もありますが、比較的お話しやすい項目につきましては今回追加しておこうと思います。
禁煙は呼吸器疾患のセルフマネジメントにおいて最も重要です。ご存知の通りタバコはCOPDや肺がんなどの発症・増悪リスクです。そのことを分かっていただくという知識的な問題よりも、分かっていても止められないという状況がタバコの難しいところです。
「ニコチン依存症」という言葉も聞かれたことがあると思いますが、今は疾患として国に認められており、ニコチン依存症の治療が保険診療として実施可能ですので、ご自身の意志の力だけでは禁煙が難しいという方は是非禁煙外来の扉を叩いてください。内服薬での治療がニコチンの貼り薬での治療よりも少し禁煙の成績が良かったのですが、ここ数年は販売中止となっていました。ニコチンパッチでの治療は以前から実施可能で、タバコを吸う行動から貼り薬でニコチンを補うことに置き換えることでニコチン(タバコの一部)に対する渇望を少しでも抑えます。それだけでは凌ぎきれない部分はどのように工夫していくのか、主治医と相談しながら3ヶ月間でタバコのない生活をモノにしましょう。
ICTの活用という意味では禁煙支援アプリが保険診療で使用可能となっていますが、禁煙の内服薬を使用している方に限定されているます。内服薬がしばらく販売されていなかったため、アプリも使用できませんでしたが、内服薬の販売が再開されましたので、将来的に期待できる治療法と思われます。
呼吸器疾患の増悪(急性悪化)は、時として命に関わり、乗り越えたとしても、その後に呼吸困難が一段悪くなった形で残ったり、筋力が低下したりすることで、ADLを低下させてしまう可能性があります。その予防と早期対応はセルフマネジメントの重要な目的です。知識としては、増悪のきっかけとして感染、喫煙、環境リスク、薬の中断などがあることを知っていただきます。うがい、手洗い、マスクの着用、ワクチン接種など、予防策は自ずと思い浮かぶと思います。
患者さんがご自身の症状の変化に早期に気づくことも重要です。それによって早期の対応が可能になるからです。息切れ、咳、痰の量や色、体温、酸素濃度(SpO₂)などの変化をセルフモニタリングし、何がどう変化すればどのように対応するのか、事前に主治医と考えておくことがおすすめです。何かの薬を開始したり増量したりするのか、緊急受診するのか決めておくことで重症化を防ぐことができます。さらに、呼吸のしんどさは心理的な要素でも悪化しやすいため、どうしたらいいか分からないという不安を少なくすることで呼吸のしんどさが悪くなりにくいようにもできます。
息切れ(呼吸困難)は慢性呼吸器疾患患者さんが特に困る、生活の質に影響を及ぼす症状で、日常生活を送る中でコントロールしておきたい部分になります。まず、息切れを生じやすい動作(坂道、入浴、着替えなど)を患者さん自身が理解し、息切れの強さや影響を客観的な数字として評価する方法(Borgスケールなど)を知っておくと便利です。数字にすることで自身の症状の変化に気づきやすくなり、次の一手を打ちやすくなります。
呼吸法としては口すぼめ呼吸や腹式呼吸の習得が勧められますが、文章では分かりにくいと思いますので、動画などでのご案内も今後考えたいと思いますし、探せばすでに動画はあちこちにありますので、検索されることをおすすめします。歩行時や階段昇降時には、呼気と吸気のタイミングの工夫で息切れの軽減を図ることも可能です。また、作業をできるだけシンプルにしたり、小分けにして負荷を落とすようにすることも重要です。そのためには例えば自宅内の動線の整理や家具の配置の工夫などもエネルギーの節約につながります。息切れに伴う不安やパニックを抑える「パニックコントロール法」を身につけることもとても重要ですが、こちらも動画の方がわかりやすいと思いますので、機会を改めます。
慢性呼吸器疾患の患者さんにとってリハビリは非常に重要で、リハビリのときにはわざと少し息が切れる程度のことをするわけですので、エネルギーの節約というのは逆向きに感じられるかもしれませんが、トレーニングするときはしっかりして、休むときはしっかり休むということが大切であることを再度ご理解していただいて、あくまで息切れをなくすというよりも、管理する、コントロールするということを意識していただければと思います。
一部の呼吸器疾患では吸入療法という特殊な薬の摂取の仕方が必要になるため、薬の吸い方や吸入薬の種類による注意事項というのがあり、この手の薬を使用されている方にとっては非常に重要な内容になりますが、こちらは喘息学会に非常によくできた動画が挙げられていますので、そちらの視聴がおすすめです。こちらは転載できませんので、学会のホームページを検索してみてください。
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