ウイルス感染と抗菌薬
ウイルス感染と抗菌薬

最近の風邪はあまり季節が関係ないような流行も見られますが、これから冬を迎えるにあたり、風邪=ウイルス感染と抗菌薬との関係について、簡単におさらいしておこうと思います。
感染症を専門とする先生方が、すでによく説明してくださっており、最近は風邪に抗菌薬が効かないことを理解してくださっている患者さんも増えていますが、今一度細菌とウイルスの違いを確認してみましょう。


図の通り、細菌は、人間を含む動物の細胞1個と同じような構成になっており、異なる点と言えば、細胞壁の部分になります。これは植物の細胞にはあるものです。細菌を破壊する治療薬が人間の細胞に作用しないようにするためにはいろいろな作戦がありますが、細菌にしかない細胞壁を攻撃する抗菌薬は非常に良い選択ということになります。例はペニシリン系です。
一方ウイルスはそもそも細胞の要素を満たしていません。自分だけでは増殖することができないので、ヒトの細胞に侵入して、ヒトの細胞の中のものを利用して増殖します。抗ウイルス薬はRNAやDNAといった核酸をターゲットにした治療薬の他、ヒトの細胞の中から外に放出されるのを阻害し被害が拡大しないようにする薬剤ですが、図で見て取れる通り、細胞壁どころか細胞膜もありませんので、抗菌薬がターゲットとするような部分がウイルスにはそもそもありません。
ウイルス感染の代表例として上気道炎を挙げたいと思います。上気道症状、いわゆる風邪症状で病院を受診した時に、その原因微生物は90%近くがウイルスであるとされています。上述の通り、抗菌薬はウイルスには効き目がありませんので、本当に風邪であれば抗菌薬は百害とは言いませんが、少なくとも一利もなしということです。
それでは抗菌薬が有効な細菌感染を疑うのはどのような時でしょうか。ウイルス感染は体の複数の部位に満遍なく症状が出るのに対し、細菌感染は限局した部位に強い症状が出るという傾向があります。その他、膿を伴っていたり、一度改善しかかったのに再度症状が悪化する=二峰性というような経過を認める場合に考える必要があります。
必ずしも診断が容易でない場合もありますし、患者さんの持病が比較的重症で、少し余分に心配しながら治療計画を立てないといけない場合などもありますので、上気道症状に対する抗菌薬の要否について一概には言えませんが、どんな薬剤にもどうしても副作用(抗菌薬の場合はアレルギーや消化器症状など)はありますので、本当に必要なときを見極めながら賢く使っていくことが重要になります。
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