
難治性喘息と生物学的製剤
難治性喘息と生物学的製剤
ご存知の方も増えているかもしれませんが、喘息の治療といえば吸入薬、であった時代から、この数年は注射薬の武器が増えています。ただし、適応になる病態かどうかの判断が必要なことや高額であることなどの理由から、必ずしも万人に処方されるものではありません。
今回は喘息の症状がなかなかコントロールできない方に対する治療について整理してみようと思います。
気管支喘息の治療の軸は吸入ステロイド薬です。気管支のアレルギー性炎症を抑えておくために最低限必要な薬剤になります。これだけで症状が落ち着いたり、いわゆる発作が格段に減るということもあります。それでも治療効果が不十分な場合には、気管支拡張剤の吸入を追加していくことになります。同じ吸入の機械の中にステロイドと混ざった形で含まれるようになっているため、手間もかからず治療が可能で、気管支を広げることで症状が軽減されることに加えて、ステロイドの作用を増強する相乗効果が期待できます。気管支拡張剤にも大きく2種類ありますので、最大3種類の吸入薬で喘息を抑えるということが最大限強力な治療でした。その他の内服薬も一部有効なものがありますが、治療効果は限定的です。しっかり治療していても十分コントロールできずに症状が持続する方、あるいは発作を頻回に起こされる方が1割未満ぐらいの方に認められるとされており、重症喘息、難治性喘息と判断します。
このような方々には、この数年では注射剤でのさらなる治療強化の武器が増えているというのが現在の状況です。
それでは難治性喘息の方に、みんな注射剤を投与すればさらに良いコントロールが得られますね、というような簡単な話ではないところが、悩ましい状況です。
まず、非常に高価です。薬の種類によって投与量や投与間隔が異なりますが、1本1万円ぐらいから9万円程度までと決して安くはありません。高額療養費制度を利用して、実際に支払われる費用には上限ができますが、患者さんごとの収入によって幅がありますので、検討される際には十分な調査を行って、継続可能かどうかを検討する必要があります。継続可能かどうか、と表現しましたが、1回投与すれば治るというわけではなく、継続していれば、良好な状況を維持できることが多い、というような治療内容になることをご理解いただく必要があります。
もっと早くに始めていれば良かった、というような声が聞かれるほど著効される方もおられますが、思ったほど効果を実感できなかった、という方もおられます。喘息と一言で言っても、患者さんごとに起こっていることは様々ということが言われており、治療の効果が必ずしも一定ではないということが言われています。喘息症状を悪くしている原因も患者さんごとに様々であるということが言われており、そもそもの原因を洗い出して対処していかなければ、いくら高価な薬剤を投与しても十分に効き目が得られないということが、こういう注射剤の発売とともにさらに強く認識されるようになりました。今回は、難治性喘息に対して有望な薬剤があるということをお知らせする目的と合わせて、今一度皆さんに見直していただきたい、喘息を悪くする要因について挙げておきたいと思います。
この、喘息を悪くする要因について、改めてしっかり確認することが今まで以上に重要視されており、専門用語ではtreatable traitsと表現されています。
日本喘息学会が発行しているガイドラインが非常に分かりやすく記されていますので、それを参考にお話したいと思います。
まずは、アレルギー性の炎症が強すぎる、ということが喘息を悪くする要因として挙げられています。当たり前のように思われると思いますが、これが原因の方が純粋な難治性の喘息の方ということになりますので、対処法は吸入薬を強くしたり生物学的製剤のようなより強い薬物を用いる、ということになります。しかし、前述の通り、今回特に知っていただきたいことは、強い薬剤があることだけではなく、その他の喘息を悪化させる要因について知っていただくことですので、このあとの項目が特に重要です。
次に、鼻炎が挙げられています。One airway one diseaseと言われ、鼻を含めた上気道から気管支、下気道に至るまで、一連の病態があり、鼻の症状が安定していないと気管支の症状も安定しにくい、というものです。呼吸器内科医でも部分的に対応可能ですが、一定以上の重症度であれば耳鼻科の先生にもご協力いただく必要があります。
続いて、胃食道逆流があります。逆流性食道炎と言われているものです。胃酸が刺激になり喘息症状が落ち着かないことがあります。一般の方にはあまり知られていないので、医師から症状の有無を確認する必要があります。慢性的な咳で腹圧がかかるために胃酸が上がる方や肥満がある方など、意外と悪化の原因になっていることが多い疾患です。
肥満と関連することも多い、悪化の要因としては、睡眠時無呼吸も喘息を悪化しやすいです。根本的には減量が必要ですが、CPAPというマスクを装着しながら就寝するというような治療が適切な場合があります。
また、そもそも肥満そのものが喘息の炎症を悪くするということが言われています。今後のテーマで肥満に関連する疾患をまとめて記載する予定ですが、今回のテーマだけでも肥満が複数の疾患の原因になっていることが挙がってしまう状況ですので、簡単ではないことはわかりますが、やはり減量の努力が望ましいということになります。
他には、いわゆる気管が弱い状態、のため、感染を繰り返しているような方もおられます。ウイルス性であれば特効薬は特にないため、感染予防が最も重要と思われますが、細菌性の感染症であれば適宜抗生剤治療が必要です。
また、これまで記載したような内科的な疾患が全く問題ない場合に、不安などの心理的な因子が喘息症状を悪化させている場合があります。社会背景などを伺って、明らかに精神的な問題があると感じる場合もありますが、呼吸器内科医では気付けないようなものもたくさんありますので、どうしても喘息の状態が悪いという場合には、一度は精神科や心療内科の先生にチェックしてもらうのも有益かもしれません。
その他にも下表のようなものに注意するよう記されております。思い当たるところがありましたら、担当の医師にお伝えくださると喘息のさらなるコントロールにつながる可能性がありますので、覚えておいてください。
喘息を悪くする要因の例 |
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ハウスダスト、花粉、ペットなどの明らかなアレルゲン |
喫煙 |
アルコール |
風邪を含めたウイルス感染 |
一部の鎮痛剤などの薬剤 |
ストレス |
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